『眼鏡』


朝――

「あれ?リオン眼鏡なんかかけてどうしたんだい?」
「起きたら枕元にあってな。かけてみたらとれなくなった」

リオンが眼鏡に手をかけ、外そうとしても外れることはなく。
外れないものは仕方ないのでそのままにしておいた。
(どうせフィリアが何かしたのだろうと思われる)

―昼―

「あら?眼鏡なんかかけちゃって!イメチェン?」
「取れないだけだ」
「それもおかしいでしょ」

ルーティが外そうとしてもやはり外れない。
ルーティもフィリアが何かしたと予想しているようで、「聞いてくるわ」と言い残し尋ねに行った。
しかし答えを聞いて帰って来ることはなかった。
(お茶の時間に聞いてみたら『ぐふふ』と気持ち悪い笑みを溢しただけだった)

――夜

リオンはウッドロウの頬を手のひらで包み、ウッドロウはリオンの首に腕を回した。
徐々に近づいていく唇と唇。
しかしカチャリと無機質な音が鳴った。
その小さな音でキスを阻まれ、ウッドロウは俄に不機嫌になる。

「む……」
「あぁ、眼鏡に当たったのか」
「…最悪だ」

ウッドロウの機嫌を治すべく、髪をすいたり、背を撫でてやったり。
しかし視線は眼鏡に注がれたまま。

「それ、邪魔……」

勿論眼鏡のことだ。

「外せないものは仕方ないだろう?」

そう、外せないのだからどうしようもない。
朝も昼もさんざん外そうとして外れなかったのだから。

「何で眼鏡なんかに」

邪魔されなければならないんだ、と苛ついた手つきでフレームをつまみ、力強く引っ張った。
すると

「え、あれ、……ぅぐっ!」

今までどれだけ引っ張ろうとも外れなかった眼鏡は、ごく普通に外れ、
勢い余ったウッドロウはバランスを崩し倒れそうになったが、咄嗟に腰に回されたリオンの腕に支えられた。
しかし勢いがあったために仰け反ったときの反動で呻いていた。

「だ、大丈夫か?ウッドロウ」

心配そうにウッドロウを見つめるリオン。

「ぅ…取れた…?」

問いには答えず呟き、ウッドロウは眼鏡を掲げた。
そしてもう一度「取れた」と呟くと、手を開き、眼鏡を床に落とした。
カシャリと音が鳴った。

「眼鏡が」

壊れる、と続けようとしたが、声はウッドロウに呑み込まれた。

「ふ…ぅ」
「…ん、ウッドロ…ウ」
「は、ぁ……なに…?」

離れたウッドロウの頬はうっすらと赤みがさし、
唇はしっとりと濡れ、カーテンの隙間から射し込む月明かりに照らされ艶めいている。
ウッドロウはキスの余韻を楽しむように、指で唇をなぞり、舌でぺろりと舐める。
ぞわ、と背筋が粟立つ。

「眼鏡が壊れてしまうだろう」

呑み込まれた言葉を再び発するが、誘われるようにリオンからウッドロウの唇を塞いだ。

「…あんな、眼鏡………」

途切れ途切れに話すウッドロウに気付き離れた。
快感からか、とろんと潤んだ目を眼鏡に向け、口を開いた。

「あんな眼鏡壊れてしまえばいい」

口元に妖しい笑みが浮かぶ。
ウッドロウはそっとリオンの頬を包み、顔を覗き込んだ。

「眼鏡なんかかけてたら、リオンの顔がよく見えないじゃないか」

ね?と同意を求めるように首を傾げ、もう一言付け加えた。

「それに、夜には邪魔だろう?」

夜の部分を強調し、笑みを深くする。
その微笑みは妖艶で、誘い文句と共にリオンを追い詰める。

「…そうだな。邪魔者には退場しててもらうか」

同意を示すと、ウッドロウは嬉しそうに笑い、
リオンはウッドロウの肩を押した。
しかし、押したとき、背に腕を回され二人してベッドに倒れ込んだ。
二人分の体重を受けベッドが軋む。

その後、二人が一晩中愛を囁き合った一部始終を、眼鏡だけが静かに見つめていた。



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ありがちネタ。そんなこともない?