朝起きたらだるくて、朝一番に会ったウッドロウに「熱があるじゃないか!」と言われ、情けなくも看病を受けていた。



『看病されてます』



《大丈夫ですか?坊っちゃん》
「……頭が痛い…」

はあ、と溜め息が出る。
今までは熱があってもある程度は平気だったが、今回はきつい。
余程熱が高いのか……

そこへウッドロウが戻って来た。
手には大きなお盆。
水の入ったボールとコップ、薬、体温計、タオル数枚、二人分の朝食が乗っていた。

「少しは食べれるかい?」
「…できれば…食べたくない」
「それだと薬が飲めないから、じゃあ、デザートのヨーグルトだけでも」

食べやすいから、と差し出されたヨーグルトを受け取る。
何か腹に入れてからでないと薬が飲めないというのは承知している、
何よりウッドロウがわざわざ持ってきてくれたものを、手付かずで返すわけにもいかない。
ということで一口ヨーグルトを口に含む。
ひんやりとした喉越しが心地よい。
味覚が馬鹿になっているのか、残念な味ではあるが。
何度かスプーンを往復させ、ヨーグルトを完食する。
食欲がなかったせいか食べる速度は遅く、食べ終わった頃にはウッドロウも朝食を食べ終わっていた。

「そうだ、これ」

ウッドロウがズボンのポケットから取り出したのは体温計。
まだ計ってなかっただろう?
そう言って差し出す。
脇に挟むこと三分。ピピピと電子音が鳴る。
見るとかなりの高熱。
ウッドロウも綺麗な形の眉をひそめた。

「39度か…高いな……はい、薬」

渡された錠剤と粉薬を水で流し込む。
味覚が馬鹿になっているのに、薬は変わらず苦いまま。
苦いと顔に出ていたのか、ウッドロウはくすくすと笑っていた。
笑顔は好きだが、馬鹿にされたような気がしてムッとした表情を作る。
それで更にウッドロウは笑うから悪循環だ。
不機嫌なオーラを感じたのか、眉尻を下げ申し訳なさそうな表情でやっぱり笑うのだ。

「すまない。あまりにもわかりやすくてね」
「放っておけ…」
「ふふ。いいかい、リオン。絶対安静だからね」
「わかってる」

いくら不機嫌にさせられても、(今回の場合)よろしい。と笑顔で言われただけで機嫌の直る僕は意外と単純にできているらしい。
体を横にし、毛布やらシーツを被る。
ウッドロウが氷水に浸けたタオルを額に乗せてくれた。
ひんやりと心地がいい。

「すぐに戻って来るからね」

一言言って部屋を出た。
ウッドロウのことなのですぐに戻って来るだろう。
と思っていたが、薬の効果か、風邪のせいか瞼が下りそうになる。
だが、ウッドロウが戻って来るまでは、と耐えようとするが、弱った体では迫り来る睡魔には勝てなかった。


ウッドロウが戻る頃にはリオンは寝息をたてていた。

「眠ったようだね」
《ええ、普段よりしんどいみたいですね》

シャルティエと言葉を交わしながら、リオンの額に乗せておいたタオルをまた濡らして絞る。
もう一枚も同様にし、汗を拭ってやる。

《すみません、ウッドロウさん…》

突然のシャルティエの謝罪の意味が解らず問い返せば、苦労かけてしまったから、と。

「シャルティエ君が気にすることはないよ」

それに、好きでやってるからね。
ウッドロウの言葉にシャルティエは嬉しそうにありがとうございますと言った。

ウッドロウとシャルティエとの会話にイクティノスも加わり話していると、ふとリオンが目を覚ました。

「…う……」

熱さとダルさに呻く。
浮いてくる汗を拭いながら話しかける。

「どうだい?」
「………熱い…」
「熱はまだ下がらないね。汗も結構かいてるけれど…一度着替えるかい?」

こくりと頷く。
ウッドロウはリオンの背を支えて座らせる。
それから当然のようにボタンに手を掛ける。
これに慌てたのはリオンだった。

「じ、自分で出来る」
「でも病人だし」
「それとこれとは関係ないだろ…」
「私がしたいのだよ」
「……違うときに聞きたかった…」
「?」

小声で言った言葉を聞き取れなかったらしい、ウッドロウは小首を傾げただけだった。
諦めるつもりがないようなので、羞恥心を大量に覚えながらも、着替えを手伝ってもらった。

ボタンをとって、汗を拭かれ、すっきりしたので新しい服に着替えようとしたとき、ウッドロウの様子の変化に気づいた。
着替えようとしているのに離れようとせず、何か思案するように俯いたまま。
ウッドロウ?
呼び掛けると勢いよく顔をあげた。
決意したような顔だ。と思った頃には何故かウッドロウに押し倒されていた。
ベッドの上の為痛みはないが、熱のせいで頭がぐらぐらする。
堪えつつ見上げればウッドロウの顔。
恥ずかしいのか頬は赤く染まっていて、大変可愛らしい。って、そんなこと考えてる場合じゃないな。

「急にどうした?」
「運動……」
「運動?」
「激しい…運動…」

顔を赤らめながら戸惑いがちに続けられる。
またも可愛らしい。と思ってたら、意識を一気に引き摺られる。
ウッドロウに体を撫で回されていた(所謂愛撫だな)
可愛らしいウッドロウに気を取られて気にしてなかったが、激しい運動って……!
気づいた頃にはウッドロウの顔がすぐ目の前まで迫って来ていて。

唇同士が触れる前に間に手を挟むことに成功。
ウッドロウの唇が手に押し付けられている。
はあ…勿体ない……。
止められた本人は目を丸くさせ、驚いた様子だった。
しかし、驚きの表情もやがてかわっていった。

瞳に涙を浮かべた悲しげな表情に。

「……どうして止めるんだい?」

私の事は嫌いになってしまったかい?
溜まった涙を溢さぬよう必死だ。

「そうじゃない」

首を振る。

「今キスなんかしたらウッドロウに風邪を移してしまうだろう?」

だから止めたんだと言えば、安心したのかぎゅっとしがみつかれる。
不安にさせてすまなかった、と頭を撫でてやれば、回される腕に力がこもる。
そんなウッドロウがいとおしくて笑みが溢れた。
耳元で「風邪が治ったら飽きるまでしてやる」と言えば、ぴくりと肩を揺らした後、更に腕に力が込められた。
背中をぽんぽんと叩くと、どうやら落ち着いたようで離れて行った。寂しいなんて思ってないぞ!

「リオンすまない。私ばかりが焦ってしまったようだ…」

しゅんと項垂れる様はなんだか怒られた小動物を彷彿とさせた(つまり可愛らしいと思った)。

「気にするな。それに、心配してくれて嬉しい」

そう言うと、ウッドロウの表情がぱぁっと明るくなる。ウッドロウもわかりやすいな。

「何かして欲しいことや、欲しい物はあるかい?」

すぐに持ってくるよと嬉しそうに言う。
ならばと手をウッドロウの前に出す。

「なら、僕が眠るまで手を握っててくれるか?」

一瞬ぽけっとしたが、そっと手を握り、

「眠るまでと言わず起きるまで」

とにこやかに笑って言った。




「運動が良いって、誰からいつ聞いた?」
「食器を置きに行ったときにフィリア君から…」
「やっぱりか…」



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風邪を移したくなかったので我慢しました(笑