『白昼夢』



窓から桜が見える宿の一室で、イクティノスとウッドロウは桜を眺めていた。
イクティノスは部屋に備えられたソファに座りながら。
ウッドロウは窓際に立ち眺めていた。

桜、桜の見える窓、窓の側に立つウッドロウ。
画になるな、とイクティノスはぼんやりと思う。
今日は暖かいとまたもぼんやりと思うとイクティノスは目を閉じた。

このまま眠れそうだ。

船を漕ぎ出そうとすると右肩に重み。
目を開けて見れば肩に乗っているのは、弓矢と剣を扱う武人の手。
見慣れたウッドロウの手が乗っていた。
何だ、と見上げればウッドロウはソファに片膝を乗り上げ、楽しそうに笑っているだけで何も言わない。

「何だ?」

今度は声を出して聞く。
すると、ふふふとまた楽しそうに笑って、肩に乗る手に力をいれてきた。
ずるずると傾くイクティノスの体は、ぽすりとひじ掛けに頭を置き。
ウッドロウは肩から頭の横に両手を移動させた。

「イクティノス」

熱のこもった声。
しかしウッドロウは笑顔のまま。
熱など覚えていないような顔で笑う。

「外には桜に、春の陽気に誘われてハメを外している人が沢山いたよ」
「それがどうした?」
「私も……」

ハメを外してもいいかな?と、
いつの間にか腹の上に跨がっていたウッドロウが小首を傾げて聞いてくる。
人に跨がるなんて(自分からは滅多にしない)大胆な事をした時点で、随分とハメを外していると思いながら、

「いいんじゃないか?」

そう言うと、ウッドロウはにこりと笑ってイクティノスの胸に手を置いた。
イクティノスはウッドロウの腰に腕を回し、もう片方の手を後頭部に据えた。
徐々に腰と肘を曲げ、そっと頭を引き寄せれば、重なりあう―――。



「イクティノス?」

引っ張り上げられるような感覚と共に、目をうっすらと開く。
滲む視界に己を覗き込む銀色。

「ウッドロウ…?」

明らかに寝起きとわかる僅かに掠れた声が間抜けに響く。
ウッドロウはイクティノスを覗き込んいるが、腹の上に跨ってなんかいないし。
イクティノスの手は、ウッドロウの腰も頭も捕らえてはいなかった。
何だ夢だったのか。とウッドロウの顔を見ながら思う。
ウッドロウは苦笑しながら頬を指差す。
何かと思えば、痕がついてるらしい。
時間が経てば消えるので2、3度擦るだけで終わる。そうしている間にウッドロウは窓際に戻っていった。

「ん?」

疑問が浮かび、声が洩れたがウッドロウには聞こえなかったようだった。
それはいいとして。
何故ウッドロウが窓際に立ったとき「戻った」と表現したのだろう。
寝ていたのでどこにいたのかわからないのに。
もしかしたら、さっきまでは座っていたのかもしれないのに。
そもそも自分はいつから眠っていたのか。
どこからどこまでが夢なのか……。
考えていても暖かな陽気に誘われて、考えがまとまらなくなってきてやめた。

(…後少しだったんだがな…)

些か残念に思いながら伸びをする。
ソファに座りながら横に倒れたような体勢で寝ていたので腰が妙に痛む。
そういえば夢の中の己もそんな体勢だった気がすると欠伸を噛み殺す。

ふとウッドロウの視線を感じた。
見遣ればにこりと笑って口を開いた。

「折角だから――ハメでも外してしまおうか?」

何を言ったのかと考えてしまったがふと気付き、何が折角だと思いながら、立ち上がり窓際に立った。
胸に添えられた手。
夢と同じだと思っていると、ウッドロウから非難するようなからかうような声が上がる。

「何を考えている?」

悪戯を思い付いたように笑うので、ウッドロウの事をと答えた。
間違ってはいない。
それはよかったと顔を俯かせたウッドロウ。
しかしすぐに顔を上げ、噛み付くように口付けてくる。
口の端から溢れる吐息も惜しいとウッドロウの後頭部を押さえ、より深く絡める。


あれは夢だったのだ。
桜と暖かな陽気が見せる、目を覚ませば夢か現か曖昧な。
甘い甘い夢。


-----------------------------
折角なので春らしいものを書いてみました
春らしくなったでしょうか…?
それにしてもウッドロウが積極的www
日記にはずっと昔に書いたことがあった気がしますが、
小悪魔的性格が大好きです。元がまじめであればあるほど。ええ、おいしいですとも!