『Happy Birthday(一周年記念)』



夜は深く、日付が変わろうとしている頃。
背後からそっと歩み寄る。
気配を消しているわけではないので、気配に敏感な彼はすぐにこちらに気付いた。

「ウッドロウ」

名を呼べば、書簡から顔を上げ、柔らかな微笑みを浮かべて、己の名を呼ぶのだ。

「イクティノス」

いつもと同じ。
だが、名を呼ばれるだけで嬉しいと思えるのはとても己が幸せ者だからなのだと思う。

「まだ終わらないのか?」

ウッドロウの腰掛ける椅子の背凭れに手を置きながら聞いた。

「あとこれ一つだけだ」

今広げている書簡を指差す。
それも、もう終わったも同然だった。
サインも書き終わり、判を捺すだけだったのだ。
邪魔をして悪かった、と一言詫び、判を捺すよう促した。
ぽんっと捺すと、乾いたのを確認し、既に見終わった書簡の山に乗せた。
ふぅ、と一息つくとこちらに向き直り、口を開いた。

「ずっといるということは、私に何か用事かな?」

そう言ってウッドロウは楽しそうに笑った。

だが、この様子ではまだウッドロウ自身気付いていないだろう。
明日がウッドロウにとって特別な日だと。
その事は伏せ、ちょっとした事だと伝えると、ウッドロウの手を引き、立たせて寝室のベッドまで引っ張った。
日付が変わるまで時間がない。


自分がベッドに腰掛け、ウッドロウは足の間に横向きに座らせた。
ウッドロウが上半身を捻らなければ、正面から向き合えないがそれは我慢しよう。
腕を回しきゅっと抱きしめる。

「急にどうしたんだ、イクティノス?」

ウッドロウは腕を回せないかわりに、体を傾げ、もたれ掛かってきた。
甘い芳香がふわりと香る。

「さっき言っただろう。ちょっとした事だと」
「それが何なのか教えてはくれないのか?」

上目使いに見られる。
だが、後数分でわかることなので教えてやらない。
イクティノスは意地悪だな、なんて声が腕の中から聞こえてきた。


「まだか?イクティノス」
「まだそんなに経ってないぞ」
「そうか?」

くつくつと笑う。
どうやら暇なようだ。
なので、頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。
驚きの声を発するが、その後すぐに笑い声が聞こえてきた。

そうこうしてる間に時が来たようだ。
11時59分を回った。日付が変わる。

「もうすぐだ」
「もうすぐ?」
「ああ、10…9…8…」

愛しい人を腕に抱き

7…6…5…4…

祝えることのなんと幸せなことか

「3…2…」
「「1」」

時計の長針も短針も12を指す。
この瞬間、日付が変わった。
今日はお前の――ウッドロウの生まれた日。

「誕生日おめでとう、ウッドロウ」
「……え?誕…生日…?」
「……忘れたのか?今日は誕生日だ、ウッドロウの」
「……あ、そうだ」

すっかり忘れていたよ、と笑いを溢し、それにしてもと続けた。

「イクティノスは覚えていてくれたのだな」
「当然だろう」

ウッドロウに関することだからな。
誇らしげに言えば、ウッドロウは目を丸くさせた。
それも数秒のことで、先程とは違う笑みに変わる。
どのように違うかと言うと、楽しそうな笑みではなく、照れたような―恥ずかしがるような、はにかんだ笑みである。

「ありがとう。凄く…嬉しい」

伏せ目がちに恥じらいながら礼を述べる姿に、愛しさはさらに積もっていく。
近くにある額にキスをすると、ウッドロウが顔をあげた。
今度はウッドロウが少し伸びをしての唇にキス。
それは軽く触れただけですぐに離れていったが、それだけで心が温もりで満たされていく。

「ウッドロウ俺は……」
「ん?」

とても幸せだ。
ウッドロウを抱く力を強くする。
私もだよ、とイクティノスの肩に顔を埋め、幸せそうに微笑んだのが伝わってきた。

一年に一度の大切な日。
また来年も再来年も、祝いたいと、仲間を差し置いて二人だけで過ごしたいと思う己は我儘だろうか。



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某事務所の歌を聞いて思いたちました(?)
ウッドロウの誕生日なのにイクティノスのが嬉しそうに見えます…
EDを軽く無視しちゃってますがそこはスルーですよ…!^^^^
ちなみに一周年記念です