「そんなことが……」

「なんなら私の部屋に行ってきなさい。気配を消して、ドアに耳を立ててみなさい」


確かめるべく書斎へと向う。

ドアに耳を立てれば、中からは微かに声がする。

泣きながら、僕に謝罪するウッドロウの声だった。


「………」

「……ごめん………ごめんね、リオン……」


僕が気絶していた間に行われたやりとり。

僕はと言えば、後先考えず行動しようとし、ウッドロウの命が危ないとわかったのはバルックに止められてから。

そんな軽率で愚かな自分が憎く恥ずかしい。

挙句気絶し、僕を守るためとウッドロウとシャルをこんな目に遭わせてしまった。

いまだに聞こえてくる泣声。ここにいてはいけない気がして静かに離れた。

戻るとヒューゴが「言ったとおりだろう?」と言わんばかりの笑みを浮かべていた。


「……………」

「どうだ、わかったか?全て真実だと」

「……ああ」


もう反論もできない。

僕の所為とはいえ、ウッドロウを奪われ、シャルを抑えられ、結果として僕の命も握られてしまった。


「では仕度をしなさい」

「何?」


突然言われた言葉「仕度」これから何をしようというのか。


「本当なら、お前に廃工場へ残り足止めをしてもらう予定だったのだが、色々あったおかげで奴等が追いついてしまってな」


奴等…?まさか!

頭に浮かぶのは共に世界を巡り、グレバムを追い詰め、神の眼を取り戻した際の仲間。


「!スタンたちが!?」

「ベルクラントより上には飛行竜でも昇ってこれんからな」

「ベルクラント?」

「まあ、おいおい説明してやろう。とにかく、ベルクラントで迎え撃つ。その仕度をしろと言っているのだ」

「ウッドロウには?戦わせるつもりなのか?」

「当然だ。遠近戦が得意ならお前と相性がいいだろう?私が伝えておく、早くするのだぞ」

「…スタンたちと戦うのか…二度目、か…あの時はこんなことになるなんて、思いもしなかったのにな………」


あの時、神の眼を取り戻したときはこんなことになるとは思いもしなかった。

嵐の前の静けさ、と感じたのは間違いではなかった。

だが、今、昔のよき時代など振り返ってもしかたがない。

スタンたちが来たということは、再び戦うことになるだろう。

その時に、なんとしてもウッドロウをあいつ等の元へ行かせなければ。

なんとしても……たとえ、僕の命が…失われることになったとしても。


やがてヒューゴと共にウッドロウが書斎から出てきた。

もう泣いてはいなかったが、うっすらと目元が赤くなっていた。

必ず、地上へ戻す……

一人誓い、見詰めていると、視線に気付いたのかこちらを見て微笑んだ。

その笑顔が、無理をしているようで、いや、実際むりしているのだろう、心が苦しかった……


「では行こう」

「ここは屋敷じゃないのか?」


屋敷の玄関のドアを開けると、見慣れた庭は微塵も見えなかった。


「当たり前だ。お前に指示しやすいように急いで模様替えをしたのだぞ」

「……お心遣い、ありがとうございます」

「なんだ?礼儀正しくなって…不敬を働いたからといってウッドロウに手を出したりはせんぞ?」

「いえ、そうではありません。今までが不自然だったのです。ヒューゴ様に向って生意気な口を…まだまだ未熟だというのに……申し訳ありませんでした」


どうせこの男には逆らえない。

隙だらけに見えるのに、今までに感じたこともない重圧を感じる。下手に手出しもできない。

だがそれも、スタン達にウッドロウを任せるまでのこと。

それまでは、駒として動いてやるさ。


「くくく、まあよい。これからに期待している」

「ありがとうございます」

「お前にもだ、ウッドロウ」


おそらくウッドロウも似たようなことを考えてるに違いない。

危機迫る場面でない場合の頭の回転は僕以上だ。

だから、同じように茶番に付き合ってやろうと思っているはず。


「尽力致します」

「多勢に無勢、お前たちが敗れたとしても私が返り討ちにしてやろう。だから存分に戦うといい」

(勝っても負けてもどちらでもいいと…)

(負けて死んだとしても構わない、ということか)

「この扉の向こうで待ち受けるとしよう。楽しみ、だな」


ようやくだ。地上へと必ず戻すことが、僕のウッドロウへの巻き込んでしまったことへの償いだ。


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