「…オン、……なさい。……リオン、起きなさい」

「やめろぉ!!!」

「…何をやめるのだ?」

「!ヒューゴ!?貴様っ!!」

「親に向って貴様とは…いつからそんなに口が悪くなったのだ?」

「?!ここは…屋敷?」


名前を呼ばれ目を覚ます。何食わぬ顔で僕の目の前に現れたのはヒューゴだった。

僕はベッドで眠っていた。見回してみると見覚えのある部屋。僕の部屋だった。

しかし僕の部屋だと思ったにもかかわらず、どこか違う部屋のような……。


「3時になったら下に来なさい」

「……わかり、ました……どうなってるんだ?」


今までのことはすべて夢だったのか……?


「どうなんだ、シャル………シャル?どこに行ったんだ………?」


階段を下りリビングへと向った。リビングには既にヒューゴがおり、ティーカップが二つ置いてあった。


「おお、やっと来たか」

「ヒューゴ様、シャ……ソーディアンがどこにあるか知りませんか?」

「先に飲みなさい。冷めては味が落ちてしまう」

「……頂きます…」


この味は……

よく似た味の紅茶を淹れる人を知っていた。


「美味しいかね?」

「はい、とても」

「美味しいと言うには、腑に落ちない顔をしているが?」

「その…知り合いの淹れたときの味に似ていましたので…」

「そうかそうか。お前の友人ならば、さぞかし美味いのだろうな」

「ええ、美味しいです」

「折角だ、誰が淹れたか教えてやろう」


嫌な予感がした――


「入りなさい」

「失礼します」

「?!」

「ウッドロウだ。お前の思ったとおり、淹れたのは…」

「…私です」


嫌な予感は的中した。

自分が思い描いた人物。ウッドロウがそこにいた。

ヒューゴの傍へと寄り、膝の上に座る。僕が目の前にいるのに、だ。


「これこれ、息子の前だというのに、私の上に座るんじゃない」

「意地悪な方だ。座れと目配せをしたのは貴方様でしょう?」

「ウッドロウ…どうして……」

「君がリオン君だね。私はウッドロウ。ご高齢のレンブラントさんにかわり、ヒューゴ様の秘書をすることになった。よろしく」

「シャルティエを持ってきてくれるか?」

「はい」


まるで、僕のことなど何とも思っていないかのように喋るウッドロウ。

ずっと前からヒューゴに仕えていたかのような自然な会話。


「………どうぞ」

「…シャル、どういうことなんだ?一体何が!!………答えろシャル!!」


酷く混乱していると自分でもわかる。

シャルに必死に説明を頼むが返事はない。代わりに答えたのはウッドロウだった。


「シャルティエ君は話せないよ」

「!何故?!」

「ヒューゴ様と契約が交わされている」

「僕が契約してるんだ!二重契約なんて!」

「マスターとなる契約ではない。簡単な契約だ。屋敷内でお前がソーディアンと会話をすれば、ウッドロウとじゃんけんをしてもらう」

「じゃんけんだと!ふざけてるのか!?」

「最後まで聞きなさい。負けたらお前は何もないが、勝ったらシャルティエでお前を刺す」

「負けたらない?ウッドロウが勝った時、あいこの場合はどうなる?」

「リオン君の前で、ヒューゴ様と私が…キスをする」


ウッドロウがヒューゴの首に腕を回し顔を近づけキスをする仕草をする。


「?!!」

「お前のためなのだぞ?怪我をするわけだからな」

「私は嬉しいのだがね」

「!!」

「ははは、あまり苛めてやるな、可哀相ではないか。部屋にも戻りなさい」

「わかりました。すまない、リオン君」


すれ違いざまに聞こえた謝罪は、淡々としているような、しかし、悲しみを押し殺しているようにも感じた。


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