特に会話があるわけでもなくただ時間が過ぎていった。

「……ん…」

ふとウッドロウが目を開けた。
寝起きのせいか焦点が定まっていない。

「…イクティノス…?」
「ああ。どうした?」
「………」

ウッドロウは何も言わず、何かを思い出すように天井を見つめていた。
顔を横に向ければ視界に入ったのはリオンとシャルティエ。
焦点がぴたりと合った。
目が見開かれる。

「ぁ……っ!」

急に飛び起き、腰掛けるイクティノスの服を縋るように掴む。
顔面蒼白。額にはうっすらと汗が滲んでいた。

「イ、イクティノス…!彼は…リオンは…?!」
「落ち着けウッドロウ。リオンならそこにいるだろう」
「本当に…あれは、本当にリオンなのか?」

明らかに恐怖で怯え、取り乱しているウッドロウがいた。
普段の冷静さを欠いたウッドロウは見ていて悲しくなるほどだった。
リオンは立ち上がりウッドロウの前に立つ。
ぴたりと動きが止まり、静かになった。
リオンは静かに頭を下げた。

「すまない、ウッドロウ。謝って済む問題ではないが、すまない。僕はここを出る」

この発言に驚いたのはシャルティエだった。

「坊ちゃん!そんなこと言って、行く宛てもないじゃないですか!」
「屋敷がある。元々此処では居候のようなものだったし、いい機会だ」

頭を下げたまま続けた。

「本当にすまなかった。僕はヒューゴ邸にいる。何か用があったら何でも言ってくれ。
ウッドロウから話が無い限り、僕からは話さないし近寄ったりしない。…迷惑をかけた」

さようなら。 小さな声で別れを告げ、踵をかえす。
と袖を引っ張られ、ウッドロは座ったままだが向かい合った。
手が微かに震えていたが、どちらが震えているかはわからなかった。

「ま、…待ってくれ、リオン」
「ウッドロウ…」
「その、取り乱してすまなかった…」
「いや、僕が悪かったんだ」
「私が混乱したからだ。雰囲気からして本当のリオンだとわかっていたのに」
「違いが、わかるのか?」
「当然じゃないか。…私が愛する人なのだから」
「…ウッドロウ…!」

ウッドロウは掴んでいた袖を引き、リオンに体を寄せた。
するりと背に回された腕が温かい。

「何処にも行かないでくれ…。私の傍に、いて欲しい……」
「本当に…本当にいいのか?」
「勿論だよ。私が言っているのだから。反対意見なんて握りつぶすさ」
「…怖い王様だな」

座っているためリオンよりも低い位置にある背に腕を回し、抱きしめ返す。
ウッドロウの腕にもきゅっと力が強くなった。

「でも、リオンはどうしてあんな風に?」
「よくわからん。フィリアになにかかけられたんだが」
「それなら俺が答えよう」
「イクティノスが?」
「ああ。と言ってもそこまで詳しい話はわからないがな」

どうやらあの薬はフィリアが実験・開発したものらしい。
理性を内に押し込み、本能を表に出す、というもの。
理性が消えているわけではないから、しっかりと出来事を覚えているらしい。
とのこと。

「イクティノスが僕にかけたのは?」
「あれは解毒剤のようなものだそうだ」
「効果の度合いは人それぞれで、あまりにも酷かったら使うように言われたんです」
「シャルティエ君、それは誰に?」
「フィリアさんです。あ、まだ続きがありまして」
「すまない。続けてくれ」
「これ聞いたときは凄い驚きました」
「なんと言ったんだ?」
「どうやらこの薬、長い時間放っておくと戻れなくなるそうです」
「え、それって…」
「つまりは、凶暴なまま、ということだ」
「おい、そんな危険なものをかけられたのか、僕は!」
「だから解毒剤貰ってただろ」
「あのときお前達が偶然入ってこなかったらやばかったのか…」
「そうだ。俺達に感謝しろよ」
「感謝してるが…それどういうことだ」
「僕達隣の部屋で待機してたんですよ」
「と、隣…!」
「顔が赤いぞ?ウッドロウ」
「だ、だって…隣って……声が……」
「聞こえてたな。丸聞こえだ」
「う、わあぁぁぁ」

「落ち着けウッドロウ」
「落ち着いてる!」
「落ち着いてない、ぞ!」

リオンは勢いづけて頭にかぶるシーツを引っ張るが、
ウッドロウが中で押さえているらしくなかなかとれない。

「引っ張らないでくれ!」
「なら出て来い」
「嫌だー!」

頑として出てこようとしない。
そこでイクティノスが助け舟を出した。

「リオン耳を貸せ」
「ん?」

ごにょごにょと内緒話。
シャルティエは何をするかはわかりきっているので、
面白そうだと、笑を必死にこらえている(しかしこらえきれてない)

「ああ、僕もやろうかと思ってたとこだ」
「いつの時代もかわらんな」
「お前達もか?」
「ああ。よくシャルティエがひきこもるのでな、対処法は熟知している」

なるほどと頷いて。リオンはウッドロウに向き直った。

「出てこないウッドロウが悪いんだからな」

リオンは蹲るウッドロウに手を伸ばしわさわさと探すように触り始めた。

「っ、な、何?」
「シーツは引っ張らないからじっとしてろ」

ある箇所で手を止める。(まあ、だいたい場所はわかっていたが)
ある箇所とはすなわち

「私の腰に手を当てて何するんだい?」

腰である。

「シーツから飛び出したくなるような、そんなことだ」
「?」

きっと考えているであろうウッドロウの腰を掴む。
そして、

こちょこちょこちょこちょ

くすぐり始めた。

「ゎ、っあ、あは、あははは!ちょ、ちょっと、やめははは」
「さっさと出てこないと続けるぞ」
「だ、だってあははは、ひいあはははは」

なにやら不可思議な笑いまで飛び出し始めた。
何気に頑張るウッドロウだった。
リオンも実に楽しそうである。

「わかった!出るから…や、やめ…はは」
「よし。ならやめてやる」

ぱさりとシーツを落として出て来たウッドロウ。

「…は、ん……も、やめてって…言ってるのに…」
「!!」

しかしくすぐられていたため息は上がり、声は吐息交じりで艶がある。
ぞくり、と背筋が震えたが、ぐっと堪え、抱きしめるだけに収まった。

「?」

わからないと言いたげな表情を浮かべたウッドロウだったが、
合点がいったようで、リオンの耳元に口を寄せ、

「夜」

と一言囁いた。
意味を解したリオンは強くウッドロウを抱きしめ、
ウッドロウはリオンに身を任せた。
イクティノスとシャルティエは見守るように笑っていた。



------------------------------------
長……
支離滅裂過ぎてやばい…
エロはしょぼいしなんか悲しくなってきた…!
最後のほうのイクティノスとシャルティエの空気っぷりにも涙がほろり
ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました